C++17では数学の特殊関数群(mathematical special functions)がヘッダーファイル<cmath>
に追加された。
数学の特殊関数は、いずれも実引数を取って、規定の計算をし、結果を浮動小数点数型の戻り値として返す。
数学の特殊関数はdouble
, float
, long double
型の3つのオーバーロードがある。それぞれ、関数名の最後に、何もなし、f
, l
というサフィックスで表現されている。
double function_name() ; // 何もなし
float function_namef() ; // f
long double function_namel() ; // l
数学の特殊関数の説明は、関数の宣言、効果、戻り値、注意がある。
もし、数学の特殊関数に渡した実引数がNaN(Not a Number)である場合、関数の戻り値もNaNになる。ただし定義域エラーは起こらない。
それ以外の場合で、関数が定義域エラーを返すべきときは、
- 関数の戻り値の記述で、定義域が示されていて実引数が示された定義域を超えるとき
- 実引数に対応する数学関数の結果の値が非ゼロの虚数部を含むとき
- 実引数に対応する数学関数の結果の値が数学的に定義されていないとき
別途示されていない場合、関数はすべての有限の値、負の無限大、正の無限大に対しても定義されている。
数学関数が与えられた実引数の値に対して定義されているというとき、それは以下のいずれかである。
- 実引数の値の集合に対して明示的に定義されている
- 計算方法に依存しない極限値が存在する
ある関数の効果が実装定義(implementation-defined)である場合、その効果はC++標準規格で定義されず、C++実装はどのように実装してもよいという意味だ。
double laguerre(unsigned n, double x);
float laguerref(unsigned n, float x);
long double laguerrel(unsigned n, long double x);
効果:実引数n
, x
に対するラゲール多項式(Laguerre polynomials)を計算する。
戻り値:
n
, x
とする。
注意: n
>= 128のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
double assoc_laguerre(unsigned n, unsigned m, double x);
float assoc_laguerref(unsigned n, unsigned m, float x);
long double assoc_laguerrel(unsigned n, unsigned m, long double x);
効果:実引数n
, m
, x
に対するラゲール陪多項式(Associated Laguerre polynomials)を計算する。
戻り値:
$$
\mathsf{L}n^m(x) =
(-1)^m \frac{\mathsf{d} ^ m}
{\mathsf{d}x ^ m} , \mathsf{L}{n+m}(x),
\quad \mbox{for
n
, m
, x
とする。
注意:n
>= 128 もしくは m
>= 128 のときの関数呼び出しの効果は実装定義である。
double legendre(unsigned l, double x);
float legendref(unsigned l, float x);
long double legendrel(unsigned l, long double x);
効果:実引数l
, x
に対するルジャンドル多項式(Legendre polynomials)を計算する。
戻り値:
l
, x
とする。
注意:l
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
double assoc_legendre(unsigned l, unsigned m, double x);
float assoc_legendref(unsigned l, unsigned m, float x);
long double assoc_legendrel(unsigned l, unsigned m, long double x);
効果:実引数l
, m
, x
に対するルジャンドル陪関数(Associated Legendre functions)を計算する。
戻り値:
$$
\mathsf{P}\ell^m(x) =
(1 - x^2) ^ {m/2}
:
\frac{ \mathsf{d} ^ m}
{ \mathsf{d}x ^ m} , \mathsf{P}\ell(x),
\quad \mbox{for
l
, m
, x
とする。
注意:l
>= 128 のときの関数呼び出しの効果は実装定義である。
double sph_legendre( unsigned l, unsigned m, double theta);
float sph_legendref( unsigned l, unsigned m, float theta);
long double sph_legendrel( unsigned l, unsigned m,
long double theta);
効果:実引数l
, m
, theta
(theta
の単位はラジアン)に対する球面ルジャンドル陪関数(Spherical associated Legendre functions)を計算する。
戻り値:
このとき、
$$
\mathsf{Y}\ell^m(\theta, \phi) =
(-1)^m \left[ \frac{(2 \ell + 1)}
{4 \pi}
\frac{(\ell - m)!}
{(\ell + m)!}
\right]^{1/2}
\mathsf{P}\ell^m
( \cos\theta ) e ^ {i m \phi},
\quad \mbox{for
l
, m
, theta
とする。
注意:l
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
球面調和関数(Spherical harmonics)
#include <cmath>
#include <complex>
std::complex<double>
spherical_harmonics(unsigned l, unsigned m, double theta, double phi)
{
return std::sph_legendre(l, m, theta) * std::polar(1.0, m * phi) ;
}
ルジャンドル陪関数も参照。
double hermite(unsigned n, double x);
float hermitef(unsigned n, float x);
long double hermitel(unsigned n, long double x);
効果:実引数n
, x
に対するエルミート多項式(Hermite polynomials)を計算する。
戻り値:
n
, x
とする。
注意:n
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
double beta(double x, double y);
float betaf(float x, float y);
long double betal(long double x, long double y);
効果:実引数x
, y
に対するベータ関数(Beta function)を計算する。
戻り値:
x
, y
とする。
double comp_ellint_1(double k);
float comp_ellint_1f(float k);
long double comp_ellint_1l(long double k);
効果:実引数k
に対する第1種完全楕円積分(Complete elliptic integral of the first kind)を計算する。
戻り値:
k
とする。
第1種不完全楕円積分も参照。
double comp_ellint_2(double k);
float comp_ellint_2f(float k);
long double comp_ellint_2l(long double k);
効果:実引数k
に対する第2種完全楕円積分(Complete elliptic integral of the second kind)を計算する。
戻り値:
k
とする。
第2種不完全楕円積分も参照。
double comp_ellint_3(double k, double nu);
float comp_ellint_3f(float k, float nu);
long double comp_ellint_3l(long double k, long double nu);
効果:実引数k
, nu
に対する第3種完全楕円積分(Complete elliptic integral of the third kind)を計算する。
戻り値:
k
, nu
とする。
第3種不完全楕円積分も参照。
double ellint_1(double k, double phi);
float ellint_1f(float k, float phi);
long double ellint_1l(long double k, long double phi);
効果:実引数k
, phi
(phi
の単位はラジアン)に対する第1種不完全楕円積分(Incomplete elliptic integral of the first kind)を計算する。
戻り値:
k
, phi
とする。
double ellint_2(double k, double phi);
float ellint_2f(float k, float phi);
long double ellint_2l(long double k, long double phi);
効果:実引数k
, phi
(phi
の単位はラジアン)に対する第2種不完全楕円積分(Incomplete elliptic integral of the second kind)を計算する。
戻り値:
k
, phi
とする。
double ellint_3( double k, double nu, double phi);
float ellint_3f( float k, float nu, float phi);
long double ellint_3l( long double k, long double nu,
long double phi);
効果:実引数k
, nu
, phi
(phi
の単位はラジアン)に対する第3種不完全楕円積分(Incomplete elliptic integral of the third kind)を計算する。
戻り値:
nu
, k
, phi
とする。
double cyl_bessel_j(double nu, double x);
float cyl_bessel_jf(float nu, float x);
long double cyl_bessel_jl(long double nu, long double x);
効果:実引数nu
, k
に対する第1種ベッセル関数(Cylindrical Bessel functions of the first kind, Bessel functions of the first kind)を計算する。
戻り値:
$$
\mathsf{J}\nu(x) =
\sum{k=0}^\infty \frac{(-1)^k (x/2)^{\nu+2k}}
{k! : \Gamma(\nu+k+1)},
\quad \mbox{for
nu
, x
とする。
注意:nu
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
double cyl_neumann(double nu, double x);
float cyl_neumannf(float nu, float x);
long double cyl_neumannl(long double nu, long double x);
効果:実引数nu
, x
に対するノイマン関数(Cylindrical Neumann functions, Neumann functions)、またの名を第2種ベッセル関数(Cylindrical Bessel functions of the second kind, Bessel functions of the second kind)を計算する。
戻り値:
$$
\mathsf{N}\nu(x) =
\left{
\begin{array}{cl}
\displaystyle
\frac{\mathsf{J}\nu(x) \cos \nu\pi - \mathsf{J}{-\nu}(x)}
{\sin \nu\pi },
& \mbox{for $x \ge 0$ and non-integral $\nu$}
\
\
\displaystyle
\lim{\mu \rightarrow \nu} \frac{\mathsf{J}\mu(x) \cos \mu\pi - \mathsf{J}{-\mu}(x)}
{\sin \mu\pi },
& \mbox{for
nu
, x
とする。
注意:nu
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
第1種ベッセル関数も参照。
double cyl_bessel_i(double nu, double x);
float cyl_bessel_if(float nu, float x);
long double cyl_bessel_il(long double nu, long double x);
効果:実引数nu
, x
に対する第1種変形ベッセル関数(Regular modified cylindrical Bessel functions, Modified Bessel functions of the first kind)を計算する。
戻り値:
\sum_{k=0}^\infty \frac{(x/2)^{\nu+2k}}
{k! : \Gamma(\nu+k+1)},
\quad \mbox{for
nu
, x
とする。
注意:nu
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
第1種ベッセル関数も参照。
double cyl_bessel_k(double nu, double x);
float cyl_bessel_kf(float nu, float x);
long double cyl_bessel_kl(long double nu, long double x);
効果:実引数nu
, x
に対する第2種変形ベッセル関数(Irregular modified cylindrical Bessel functions, Modified Bessel functions of the second kind)を計算する。
戻り値:
$$ \mathsf{K}\nu(x) = (\pi/2)\mathrm{i}^{\nu+1} ( \mathsf{J}\nu(\mathrm{i}x) + \mathrm{i} \mathsf{N}_\nu(\mathrm{i}x) )
\left{
\begin{array}{cl}
\displaystyle
\frac{\pi}{2}
\frac{\mathsf{I}{-\nu}(x) - \mathsf{I}{\nu}(x)}
{\sin \nu\pi },
& \mbox{for
nu
, x
とする。
注意:nu
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
第1種変形ベッセル関数、第1種ベッセル関数、ノイマン関数も参照。
double sph_bessel(unsigned n, double x);
float sph_besself(unsigned n, float x);
long double sph_bessell(unsigned n, long double x);
効果:実引数n
, x
に対する第1種球ベッセル関数(Spherical Bessel functions of the first kind)を計算する。
戻り値:
$$
\mathsf{j}n(x) =
(\pi/2x)^{1!/!2} \mathsf{J}{n + 1!/!2}(x),
\quad \mbox{for
注意: n
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
第1種ベッセル関数も参照。
double sph_neumann(unsigned n, double x);
float sph_neumannf(unsigned n, float x);
long double sph_neumannl(unsigned n, long double x);
効果:実引数n
, x
に対する球ノイマン関数(Spherical Neumann functions)、またの名を第2種球ベッセル関数(Spherical Bessel functions of the second kind)を計算する。
戻り値:
$$
\mathsf{n}n(x) =
(\pi/2x)^{1!/!2} \mathsf{N}{n + 1!/!2}(x),
\quad \mbox{for
n
, x
とする。
注意:n
>= 128 のときの関数の呼び出しの効果は実装定義である。
ノイマン関数も参照。
double expint(double x);
float expintf(float x);
long double expintl(long double x);
効果:実引数x
に対する指数積分(Exponential integral)を計算する。
戻り値:
$$ \mathsf{Ei}(x) =
- \int_{-x}^\infty \frac{e^{-t}} {t } , \mathsf{d}t ; $$
x
とする。
double riemann_zeta(double x);
float riemann_zetaf(float x);
long double riemann_zetal(long double x);
効果:実引数x
に対するリーマンゼータ関数(Riemann zeta function)を計算する。
戻り値:
x
とする。